死化粧は誰が、どのタイミングですべきか

死化粧で疑問が出たのは、40代の女性の死化粧を見た時でした。湯かん直前に死化粧をするのが当たり前だと思ってたある葬式、いつものように納棺師が化粧してから、湯かん納棺と続きます。

葬式経験のある方は、その時の様子を思い出して頂き、映画『おくりびと』を観た方は、その場面を思い出してください。我々の施行も数十回を数えた頃、病気で亡くなった40代女性の葬式前日いつものように湯かん・納棺の儀を始めるとき派遣納棺師が言います。

「これより故人様へのお化粧を始めます」
故人の死化粧と髪もムースで整えられ、小奇麗な女性の姿があらわれたのです。故人には失礼ですが、化粧するまではもっと老けた印象でしたから 、綺麗になったなぁ、という感覚は家族も同様の反応でした。しかし『ちょっと待てよ、何か違うんじゃねぇか!?』と思い直したのです。

みなさんは、この流れに違和感を感じませんか?

僕はこんな風に思いました。化粧・整髪をして綺麗になったのは今で、先程まで年令より老けて見えてたって事は、臨終から今まで会った人達は、全員素顔を見た訳で、化粧して綺麗になった直後に棺に入るのです。もしこの女性に「お化粧はいつしますか?」って聞けたら「出来るだけ早めに・・・」と言うはず、もっと早い段階で化粧すれば良いのに何で今頃するんだろう? 確認の為2008年上映された映画『おくりびと』の湯かん場面を確認、やはり湯かん前後で死化粧をしてます。理由が分からず派遣先社長に確認すみると、答えは納棺師派遣費用の問題でした。

湯かん・納棺の時の化粧なら1回の出張料だけど、搬送された直後だと計2回の出張となり、出張費が倍になる。費用を抑える為に湯かんまで化粧しない。実に微妙な判断――、でも故人が女性なら納得しないだろうし、葬儀屋は故人が――、故人を――、と言うなら、他の費用は抑えても化粧は早めにすりゃあ良い、あと納棺師の技術を見せつける無用なパフォーマンスにも思える。

自分で納棺師ができるようになったら、家族が希望するなら打合せ後、死化粧をしてあげよう。それなら夜中の搬送でも翌朝来る隣保や親戚、友人知人にも綺麗な顔で会える。故人も家族も納得すると考えたのです。姉が癌で逝った時「死んだ顔は誰にも見せないで欲しい」と、わざわざ僕に頼んだ女心、女性なら誰でも持つ女性心理を教えてくれたのは姉でした。

キリスト教系の信仰を持つ親子の母親が癌で亡くなったと連絡が入り、前橋から車で1時間以上の総合病院まで迎えに行くと、息子さん2人と長男のお嫁さんの3人で待っていました。霊安室で軽く挨拶をすると寝台車で前橋の自宅まで搬送、ベッドに安置、ドライアイスで処置をすると、50代になったばかりの母親は結構美人さんです。

ただ肝臓癌で顔は黄緑色になっているのが気になります。コンシーラで色を隠した上から、普通に化粧すれば元が美人ですから綺麗になるはずです。打ち合わせが済んだら一度事務所に戻ってメイク道具を持って来ようと考えながら打合せに入りました。死亡診断書を書いて貰ったり、火葬日時を予約しながら息子達の職業を聞くと次男は美容師だと言う。

「美容師なら化粧はできるかい?」
「あ、はい、できます」
「じゃあさ、メイク道具は持ってきてあげるから、自分でお母さんを綺麗にしたらどう?」
「え、メイク道具貸して貰えるんですか?」
「うん、ただ肌の温度が低いから、いつもより化粧品は伸びないけど、化粧する時に教えるよ」
「あ、はい、宜しくお願いします」
「髪の根元が白くなってるけどヘアカラースプレーあるかな?」
「スプレーはありませんけど、マスカラタイプの染毛料なら――、」
「うん、それで良いから僕らが戻ってくるまでに髪の根本は染めておいて」
「はい、分かりました。宜しくお願いします」

メイク道具を持ってくると、洗浄綿で顔を拭き、顔から首にピンク系コンシーラを塗るよう伝えます。更にクリームタイプのピンク系ファンデーションを顔全体に伸ばし、少し乾かし粉おしろいをたっぷり叩くと、フェイスブラシで全て掃きます。チップで眉を描き、チークはほんの少しさし、ピンク系の口紅をひくと完成、予想通り美人さんでした。眠っているような母親を見た息子達は涙を流しましたが、母親の最後を自分の手で化粧できたのは嬉しいと言ってました。その後、大勢の同じ信仰を持つ人達が集まってくれましたが、綺麗な顔の故人と対面して貰えました。

この経験で分かったのは、化粧後の綺麗だけを捉えたら、息子より僕がしたほうが綺麗かもしれません。でも自分の息子が一生懸命してくれた化粧を喜ばない母親はいないでしょう。それに化粧をした息子だけでなく、家族全員の心も温かくなり満足できることでした。故人の娘や孫娘がする死化粧、上手下手以前に家族の温もりを感じられます。今は死化粧を望む家族には、故人が使用してた化粧品を使い家族の手でするよう伝え、分らない部分はアドバイスをする事にしています。

ただ全ての死化粧とはいかず、難しい化粧や条件のある化粧は僕の出番です。
・強い黄疸(おうだん)のあるご遺体(どの程度濃く塗れば隠せるかの判断は難しいです)
・うつ伏せで亡くなり顔が赤紫にうっ血してるご遺体(黄疸より濃い化粧になり難しいです)
・安置が4日間以上に及ぶ時(顔は黒ずみますから搬送直後化粧すれば分りません)
・顔が痩せこけたご遺体(含み綿は素人さんでは無理です)
・目が開いてるご遺体(ガーゼ等でアイマスクして両面テープで留めます)
・化粧ではありませんが、ご遺体は口を閉じてあげれば穏やかになる(口閉じは僕がします)

余談ですが、顔のシワは重力で下がり薄くなりますから女性は安心してください。特殊な技術、高度な技術が必要なときは僕自身が死化粧を行いますけど、この一件から、何でも我々がすれば良いわけでなく、家族のほうが温かい葬式になる部分もあります。改めて葬式の仕事とは、あくまで黒子なのだと実感した葬式でした。

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