第六話 5万円火葬実現の為にクリアすべきハードルの数々

直葬に最低限必要な項目と費用を出してみると、お迎え搬送委託、ドライアイス15㎏、包む綿花、白タオル2本、白布棺、線香具一式、手続き代行、棺霊柩搬送委託、7寸白骨壺一式、2名2日分人件費まで考慮すると10万円を超えてしまいます。5万円火葬など夢のまた夢――、人件費ゼロでも5万円には到底及びません。当時は一般葬と自宅家族葬ばかりでしたから、直葬を考えなくても済む状態でしたが、このままでは到底出来ないと、無理を承知で89,900円の看板を出した。

「代表、この価格では全くできないですよ。依頼が入ったらどうするんですか?」
「分かってるよ、だから依頼が入るまでに何とかするしかないだろ――、」
今思うと半分は利用者意識を確認したいのと半分はヤケクソだったのか、いずれにしてもすぐ依頼は無いだろうと思ってましたが、予想に反し看板を出した直後に依頼が入りました。

幸いなことに自宅逝去で搬送なし、市の霊柩車を使えば6,000円ほどで済むと分り、経机は棺卸しの業者さんから貰った物を使い、線香具一式は安い物を揃え、業者は入れず全て自分達だけで執り行った結果、この直葬は赤字でしたが、お迎え寝台と霊柩共用できる車があり、人件費を考えなければ、儲からずとも、赤字には成らず5万円で可能になると分ったのです。

この頃になると、葬式用具を仕入れる所、生花を提供してくれる花屋さん、返礼品屋さん、さらに料理屋さんと業者さん達も決まりましたが、業界が小さい事もあり、業者さんの中には個人もありますから、とにかく支払いは早くしてあげようと思いました。料理屋さんは材料を仕入れて調理、それを提供してくれるのですから、葬式の時はすでに材料代は支払ってある訳で、我々が月末締めの翌月末支払いでは最大60日分が先払いとなります。俺だったら嫌だなと思うから、基本的には葬式当日持ってきた時点で先払い。花屋さんも持ってきた時払い、返礼品や棺類等は全て月末までの仕入れは全てその月末支払い(例・11月30日仕入れは当日11月30日支払い)としました。

葬儀屋は基本的に掛け売りしませんから、支払いも買い掛けにすべきではない。もっと言えば買い掛けが当り前になったら、支払いが滞る可能性も高く、そうなったら信用は無くなります。いつ入るか分らないのが葬式、今日かもしれないし、明日かも、或いは数か月先かもしれないのです。だからこそ基本は全て現金払い、無借金経営と考えてのことです。

そこからは葬式に必要な葬具類をひとつひとつ揃えました。最初は白木でなく黒塗りの経机1台からで、葬式が済むとご褒美として幸楽苑の290円ラーメン1杯づつと餃子と半炒飯のセットを1つ頼んで2人で分けて食べましたが、今思い出しても旨かったです。あんしんサポートに使う費用は全てあんしんサポートで賄うと決めたからの現実です。実際にはまだ食えません。本格的に食えるようになったのは、設立から5年後、あんしん館開設してからですが、僕の理論では一定数以上の施行が入れば必ず食える計算だったのと、別事業を持ってたのでさほど不安はありませんでした。

ただ千明も収入はありませんから、まずは会社でガソリン代の負担から始まり、次は携帯電話代の負担、更に車検を機に廃車して会社名義の車を貸与、その後に給料の支給という流れだったと思うから、ちんと給料が貰えたのは、あんしん館開設以降だったと思う

霊柩車の値段の新車価格の3倍くらいと言われ、到底我々の手が届く金額ではない、霊柩車の取得が最大の難関になると思ってましたが、それでも週に何度もネットで検索しては溜息をついてました。と同時に葬儀支援を行う上で必要な、様々な知識を得ることも始めました。普通は葬儀屋の先輩から実技も含め色々教わるのでしょうが、葬儀屋勤務経験はありませんから、全て学ぶしか無かったのが幸いしました。簡単に言うと間違った知識を吸収せず済んだわけです。知識としては、
》逝去からの時間による硬直と軟化、腐敗進行過程等(学生時代学んだ整理解剖学が役立った)
》仏教、神道、キリスト教など各宗教の基本概念と歴史(保育園がカトリックだったのも役立つ)
》人の死後に必要な全ての手続きの具体策(家族親族で10回以上の葬式経験が役立った)
》死化粧(元々美容師に化粧を教えてた人間ですから得意です)

例えばドライアイスを当てる場所ですが、当初は葬儀屋さんが当てるのを見て真似しました。首の左右頸動脈2本、腹部、胸部で4本と当てましたが、改めて学ぶと腐敗進行の速い腹部と下腹部が最優先、次は胸部、季節や状況によっては頭部と分り始めると、使用するドライアイス量は減るし火葬時間から逆算してドライアイスを外したほうが火葬時間は短縮できると分りました。その意味では時々遺体頭部の横に頭から10cmも離してドライアイスを置く葬儀屋も見ますが、納棺状態でなければ意味はなく、ドライアイスを使用量を増やしたいだけ――、と分り、決して家族思いのいい葬儀屋ではないと言い切れます。

不思議なのは、今までの人生で得た知識や技術が葬儀支援には全て役立った事です。また死体については想像と違い、生理的に駄目では無かったのも幸いしてます。実践で必要な死体関連の知識と、死後に必要な手続きを学ぶ中で、いつの間にか弱者家族にとっての最善を考える習慣が出来た事で、死後の葬式より、残る家族の生活が大事だと気づいたが、その視点に立つ葬儀屋は皆無と分った事で、葬儀支援の骨子ができたように思う。ある程度の知識を得て、葬式で必要な葬具類を揃えていくと、最大の難関が見えてきた。それが霊柩車の取得です。つづく

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